今日、ちょうど暗くなる頃から海に釣りに行った。
先に電気浮きを付けた竿を一本投げておいて、もう一本の投げ釣りの竿の鍼を結んでいると、浮きの方の竿が大きく引きかれてもちあげられた。
上げてみると40センチのハネがかかっていた。
出世魚、スズキの30センチから60センチまでを西ではハネと呼び、中部だか関東より向こうはフッコと呼ぶらしい。30センチ以下はセイゴという。
40センチに成長するには恐らく4年くらいかかると思われる。
「ごめんな」
と言いながらそれを絞めてまた餌を付けて投げ直し、今日は幸先がいいなと思いながら投げ竿の方も準備して投げたが、やっぱりもう帰ろうかと思い始めた。
一昨年だったか、釣り上げたセイゴだかチヌだかを掴んだときに時に、掌ほどしかないその魚の重みを感じながら、ふと、
「これでもジャンゴより重いのか」
と思った。
ジャンゴは雌のセキセイインコで、他の種のインコや鳩を含めたファミリーの中で、一番最初にうちに来たてくれた鳥だ。
挿し餌で育てながら飛び始めて少し経ったころにメガバクテリアにやられ、餌を食べた後に飛ぼうとしてはすぐに落ちて、もうダメかと思うほどぐったりして動かなくなることが毎日続いた。
肌寒い時期だったので掌で包んだり、自分の腹に乗せて毛布を掛けて温めてやったりした。
通院しながらもらった薬を飲ませて少し良くなり始めたころに、今度は脚気で足が立たなくなった。
これも一生歩いたり、木に止まることもできなくなるのかと心配したが持ち直してくれた。
しかし大事な成長期に十分な栄養を取れなかったためか、今も標準よりも体が小さく骨格も少し歪んでいるようで、動きもセキセイインコらしい機敏さがなくなった。
飛ぶのも苦手でなかなか上昇できず、頑張っても3メートルくらいの距離で落ちてしまう。
おまけに成鳥になってからもケージ越しに中型インコに噛まれて怪我をして、自分の油断でかわいそうなことをしてしまった。
その闘病中に、40分ほど目を閉じて死んだように動けなかったものが、ようやく目を開けるとすぐにピッと声を上げて飛び立って、1、2メートルほど飛んで床に落ち、またしばらく動けなくなる。
その若鳥の本能には胸を打たれた。
野生の中では飛ばなければ死ぬ、幼くても病気でも地面に横たわっているわけにはいかない、どんな動物でも生き続けようとするものだと痛感させられた。
もうだめかと思いながらも生き延びてくれて分、愛おしさも一入で、朝や他所から帰ったときには最初にジャンゴの名前を呼ぶ。
新しい止まり木や新しいおやつ、新しくアビアリー(鳥の家)を作ったときなどは、必ずこの一番小さい長女に最初に体験させてやる。
人も鳥も魚も体現が違うだけで、生きることへの執着心はそれぞれが同じように持っていることだろう。
この魚はジャンゴの10倍ほども大きく、倍くらいも生きている。
せっかく今日まで厳しい条件に勝ち生き抜いてきたことを思うと、命を奪うのが切なく感じる。
大小で比べるものでもないが、30グラムに満たないジャンゴがこんなに感情豊かで可憐で愛おしくを思うのに。
投げた2本の竿を上げて帰った。
魚はすぐに刺身でいただいた。
続く
追記:書き始めて2日経ってしまいました。
追記2: ちなみにジャンゴという名前はよく聴いていたジプシージャズのギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトからいただきました。雛のころに雄だと思ってそう名付けましたが成鳥になり雌と分かりました。
追記3: 昨日、磯で釣りをしていると、30メートルほど沖に浮かぶブイにアオサギが止まった。
ずっと水面を見ながら辛抱強くチャンスを窺っていた。
私は2時間ほどの間に2枚釣ったが、そのサギは何も獲物がなく飛び立っていった。
私は魚が釣れなくてもなかなか飢え死にしないが、自然界は厳しい。
これから冬が来ると思うと、もっと切なくなる。
せめて感謝していただきたい。
動画 ジャンゴの水浴び